Windows 11と
モダンUI開発技術のまとめ
このドキュメントは、Windows 11へのアップデートによる変化と、それに関連するモダンなUI(ユーザーインターフェース)開発技術(UWP/WinUI, React, React Native)について、詳細に解説します。
Part 1: Windows 11へのアップデートによる変化
Windows 10から11へのアップデートは、OSのデザインルールを根本的に変更し、パフォーマンスを向上させる多くの改善を含んでいます。
デザインの刷新:なぜ見た目がリッチになったのか?
Windows 11では「Fluent Design System(フルーエントデザインシステム)」という新しいデザインの考え方が全面的に採用されました。これが、見た目がリッチになった最も大きな理由です。
アプリのウィンドウが、背景にあるデスクトップ壁紙の色をほのかに透かすような効果です。これにより、ウィンドウに奥行きと階層感が生まれ、UIに統一感をもたらします。
メニューや通知、ダイアログなど、一時的に表示されるUI要素が「すりガラス」のように強く透ける効果です。コンテンツとの前後関係を明確にします。
ウィンドウやボタン、メニューなど、あらゆるUI要素の角が丸くなりました。これにより、全体的に柔らかく、モダンで親しみやすい印象を与えます。
アイコンはシンプルで認識しやすいデザインに一新されました。また、ウィンドウの操作に対するアニメーションがより滑らかになり、フィードバックが分かりやすくなっています。
これらのデザイン原則に基づき、ELECOMのマウスアシスタントのようなサードパーティ製アプリケーションも、OSとの親和性を高めるためにUIを新しいデザインに更新しています。
動作の改善:なぜ動作が良くなったと感じるのか?
見た目の変更だけでなく、OSの内部的な仕組みも大きく改善され、体感的なパフォーマンスが向上しています。
- パフォーマンスの最適化: Windows 11は、ユーザーが現在アクティブに使用しているウィンドウ(フォアグラウンドのアプリ)に、CPUやメモリといったシステムリソースを優先的に割り当てるように設計されています。
- メモリ管理の効率化: アプリケーションがメモリを使用する効率が向上し、システム全体の応答性が改善されています。
- スリープからの高速復帰: スリープ状態からの復帰プロセスが最適化され、作業をより迅速に再開できるようになりました。
プログラミング言語と開発技術の変化
OSのコア言語
Windows OS自体の核となる部分は、従来通り、主にC++, C言語, アセンブリ言語で記述されています。これらの言語は、ハードウェアの直接的な制御や、OSの根幹をなす高速な処理に不可欠であり、基本的な部分に変更はありません。
アプリケーション開発技術の進化
変化したのは、OS上で動作するアプリケーションを開発するための技術(UIフレームワーク)です。
- 旧来の技術 (Win32): 平面的で角張ったデザインのアプリ。
- 新しい技術 (UWP, WinUI): Windows 11のリッチなデザインを実現する最新の道具。
つまり、OSの根幹言語は不変ですが、開発者が利用できるUI開発の道具が刷新されたことで、アプリケーションの見た目や操作性が大きく進化したのです。
Part 2: UI開発技術の共通点と違い
ここでは、モダンなUI開発で使われるUWP/WinUI、React Native、Reactの間の関係性について解説します。
React Native と UWP/WinUI の共通点
JavaScriptベースのReact Nativeと、C#などが主体のUWP/WinUIは、「宣言的UI」と「ネイティブUIへのブリッジ」という点で重要な共通点を持ちます。
「UIはデータの状態を映し出す鏡」という思想。React NativeはStateで、UWP/WinUIはXAMLという言語でUIの状態を「宣言」すると、UIが自動的に更新されます。
React Nativeで書かれたコードは、最終的にUWP/WinUIが提供するWindowsのネイティブUIコンポーネント(本物の部品)に変換(ブリッジ)されて画面に表示されます。
共通点 | React Native | UWP / WinUI |
---|---|---|
UIの考え方 | 宣言的UI(Stateに基づいてUIを自動更新) | 宣言的UI(XAMLとデータバインディング) |
最終的な表示 | ネイティブUIコンポーネントに変換される | ネイティブUIコンポーネントそのもの |
開発思想 | クロスプラットフォームでのコード共通化 | Windowsエコシステム内でのコード共通化 |
React と React Native の共通点
React Nativeは、WebフロントエンドライブラリであるReactを基礎(コアライブラリ)として利用しているため、基本的な概念や書き方はほとんど同じです。
// ReactとReact Nativeで共通のロジックとJSX構文
function WelcomeMessage({ name }) {
// nameというデータ(props)を受け取ってUIを返す
return (
// React Nativeでは<View>、React (Web)では<div>を使う
<View>
{/* 同様に、React Nativeでは<Text>、Reactでは<p>などを使う */}
<Text>こんにちは, {name}さん!</Text>
</View>
);
}
唯一の大きな違いは「出力先」
<div>
や<span>
といったHTMLタグを使い、ウェブブラウザのDOMにUIを描画します。
→ 出力先はWebページ
<View>
や<Text>
といった独自のコンポーネントを使い、最終的にOS標準のネイティブUI部品に変換されて描画されます。
→ 出力先はネイティブアプリ
背景と将来性:なぜ今「すりガラス」なのか?
このデザインがApple製品などで広く採用されている背景には、単なる見た目の流行だけでなく、技術の進化と将来のコンピューティングを見据えた明確な理由が存在します。
6.1 OSネイティブとWebの実行原理の違い
macOS、Windows、Web(CSS)で「すりガラス」を実現する基本的な原理(背後をぼかす)は同じですが、その処理の実行方法が異なります。
実行者: OSのグラフィックエンジン(Metal, DirectXなど)とGPU。
特徴: OSとハードウェアが密に連携し、処理が高度に最適化されています。パフォーマンスは非常に高いです。
実行者: WebブラウザとGPU。
特徴: ブラウザがCSSを解釈し、OSを通じてGPUに処理を依頼します。ブラウザというワンクッションを挟むため、パフォーマンスが劣る可能性があります。
6.2 ハードウェア性能の進化とAppleの戦略
AppleがOS全体でこのデザインを多用できるのは、ハードウェアの性能が飛躍的に向上したことが最大の理由です。
- Appleシリコンの力: 自社設計のMシリーズやAシリーズチップは、グラフィック処理に特化した強力なGPUを内蔵しており、すりガラス効果のような負荷の高い処理を電力効率よく、かつ高速に実行できます。
- 負荷と最適化: 計算の負荷自体はかかっていますが、OSとハードウェアが一体で開発されているため、ユーザーが「重い」と感じさせない高度な最適化が施されています。
6.3 未来のインターフェース:VR/ARとの関連性
このデザインは、将来のVR/AR(空間コンピューティング)時代を見据えた、機能的な必然性も持っています。
- 現実世界との連続性: ARグラスなどでは、UIが現実空間に重なります。UIが半透明で背景が透けることで、現実とのつながりを保ち、圧迫感を軽減します。
- 奥行きと階層の表現: 3D空間におけるウィンドウの前後関係(階層)を、ぼかしの度合いで直感的にユーザーに伝えることができます。
- 集中と環境認識の両立: 手前の情報に集中させつつ、背景の環境を完全に遮断しないため、ユーザーは自分がどこにいるかを見失うことなく、安心して操作に没入できます。
AppleのVision Proで採用されているvisionOSが、この「すりガラス」をUIの基本としているのは、これらの理由からです。このデザインは、2D画面のトレンドであると同時に、未来の3Dインターフェースの基礎となる重要なデザイン言語なのです。
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